クリーブランド・クリニックのCEO、トビー・コスグローブ博士は、ハーバードにいた2006年当時に体験した”aha moment”=「なるほど!と合点した瞬間」を回想しながら言った。「地域社会で市場シェアも雇用も失ってしまいそうだという事実が、心から離れなかった。」そして、次のように結論した。「クリーブランド・クリニックは、患者さんを治療するだけではベストな成果を挙げ続けることができない。これ以外にも、何かしなければならない。」彼は、メイヨー・クリニックを調査研究して、その強みが地域社会での取組みにあることを学んだ。
コスグローブ博士は、自分の構想を地元カヤホーガ郡全体に適用して、大胆で系統立った戦略的投資を盛り込まなければならないと悟った。これに従って、主任健康管理責任者(以下、CWO)は、郡の健康管理に注力するようにクリニックのミッションを修正した。クリニックは、個人個人が健康的な習慣を身につける手助けをしつつ医療費を10%以上削減するために、非金融社会資産に3000万米ドルを投資している。この医療費削減額は、カヤホーガ郡だけでも10億米ドルにのぼる。——これは、地域社会にとって重要な収益であり、将来の雇用者を惹きつける仕掛けにもなっている。
BHAG「社運をかけた大胆な目標」*を実現するために、CWOのロイゼン博士は、組織の内外に働きかけてクリニックの長期ゴール実現に努めている。彼は熱い思いをもって、自分の思いを皆に伝えて行くというチャレンジを行っている。組織内では、33の健康管理グループが(それぞれのクリニックにつき1つ)、新しいビジネスや雇用者の健康管理に新規投資を行うべく発足した。
クリーブランド・クリニックの従業員健康保険への財政支援は、新しいビジネスのやり方の好例だ。クリニックでは、従業員健康保険費用の一部で各従業員に毎年5つのサービスを提供している。血圧測定、腹周測定、結核判定用血液検査、健康的生活への計画作り、及び、一般的な健康リスク評価(5つの選択肢のうち1つ)である。最初のころは、多くの人が「そんな事はしたくないよ。」と言っていたが、サービスを受けないという選択肢を選ぶと余計にお金がかかった。結局、クリニックの全従業員が健康診断に応じ始めた。
対外的には、重要な課題やリスクの高い関連事項に的を絞ったプログラムに投資を行っている。例えば、クリニックは、無料の禁煙プログラムを郡内の全住民に提供しており、有望な成果が見られている。今までのところ、クリーブランド・クリニックが禁煙プログラムにかけた金額は、救われた1つの命当たり年間92米ドルだった。これが高血圧の場合には、年間3万米ドル〜6万米ドルかかる。栄養に関しても、同じようなアプローチがとられている。クリーブランド・クリニックは、人々を教育し、健康的な食品が入手できるような手助けもしている。
こういった社会投資の結果は数字にも現れ始めている。
この数値基準には、以下のものが含まれる。
●アイデアを出す従業員の比率、及び、検証され制度化したアイデアの比率
●プログラムの順守、及び、プログラムから逸脱した原因
●全体としてより健康な習慣がある人の比率、及び、四半期毎に不健康な習慣から健康的な習慣に変わった人の比率
●オハイオ州全体と比較した、郡人口1人あたりの医療費
ロイゼン博士によると、「クリーブランド・クリニックが自らの従業員と地域社会の世話をするということの実現によって、より多くの社会的責任を有する組織へと、徐々に変化している。」
結果を論じるには時期尚早ではあるが、クリニックは目に見えて熱気を帯びている。これから12ヶ月以内に、結果がクリニック内でも地域社会の数値基準でも顕在化してくるに違いない。数値が出たら、それに応じてプログラムを調整し、良い結果が出れば他の場所でも同様のプログラムを実施することになるだろう。
訳注
*『ビジョナリーカンパニー』 ジェームス・C. コリンズ (著), ジェリー・I. ポラス (著), 山岡 洋一 (翻訳), 日経BP出版物センター より